2026/7/21

大鏡建設に学ぶ失敗しない会計DX|ツール単体で終わらせない全体最適のコツ

Writer

やまうち しょうご

株式会社デジタルフォワード代表取締役/DXコンサルタント。旅行代理店からIT業界へ転身。Booking.com(外資IT)、アクセンチュア(外資コンサル)、CYDAS(日系IT)、フリーランスPMでの実務経験を経て株式会社デジタルフォワードを設立。業務改善・ツール導入・自動化支援を展開。伴走型コンサルとして中小企業を支援。英日バイリンガルでの対応も可能で、研修講師や戦略立案支援も行う。沖縄県在住。

こんにちは。デジタルフォワードの山内です。

インボイス制度や電子帳簿保存法への対応をきっかけに、社内のデジタル化を進めた企業は多いのではないでしょうか。

しかし、「せっかくシステムを導入したのに、なぜか月末の業務がちっとも楽にならない」「結局、画面を見ながら手入力する作業が残っている」という声をよく耳にします。

これは、システムを導入したものの、結局どこかで手作業が発生してしまう、中途半端なデジタル化の典型的なパターンです。

せっかくのITツールも、単体で浮いてしまっていては真の価値を発揮できません。

今回は、沖縄の建設企業である大鏡建設株式会社さんのDX事例をベースに、本当に効果が出る会計DXの条件を、コンサルタントの視点から解説します。

同社が年間640万円ものコスト削減と劇的な業務効率化を達成できた理由は、単なる紙のデータ化で終わらせず、システム同士を「線」で繋いだことにありました。

自社の経理業務に限界を感じている経営者や担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

1.  年間640万円のコストを削った、建設企業の大きな成果

業務効率化やDXの重要性は理解していても、自社では難しいのではないか?と諦めてしまうケースは少なくありません。

しかし、やり方次第で成果を出すことは十分に可能です。

毎月膨大な書類を処理していた建設企業が、どのような課題を抱え、そこからいかにして年間640万円ものコスト削減という成果を出したのか見ていきましょう。

1-1. 毎月700件の請求書処理に追われる現場

大鏡建設株式会社さんは、賃貸向け共同住宅の建築を中心に、土地活用から設計・管理までを総合的に手がける建設企業です。

現場が多くなればなるほど、関わる取引業者の数も膨大になります。

同社では毎月約300社から、添付資料を含めると実に3,500枚(約700件)にのぼる紙の請求書が届いていました。

従来の業務フローは、想像を絶するほど手作業に依存したものでした。

総務部に届いた紙の請求書を開封・確認し、それを工事部が現場ごとに仕分け、各工事現場へ直接届けて内容を確認してもらう。

その後、再び総務部に戻してようやく支払処理に移るという、非常に複雑で行ったり来たりの多いプロセスだったのです。

電卓を片手に1枚ずつ手入力で処理するため、紛失や入力ミスといったヒューマンエラーのリスクが常に隣り合わせでした。

さらに振込前には、手入力した一覧表を二人一組になり、丸1日がかりで目視による突き合わせ確認を行っていたそうです。

ミスが許されないお金の業務だからこそ、担当者が抱える心理的負担は非常に大きなものでした。

1-2.  デジタル化したら、処理期間が半減、ミスはゼロへ

こうした紙と手作業の限界を突破するため、同社は2020年に請求書業務のデジタル化へと舵を切りました。

その結果、もたらされた成果は目をみはるものです。

まず、半月がかりだった請求書処理の期間が、わずか約1週間へと半減。

手入力が不要になったことで、懸念されていた転記ミスなどのヒューマンエラーはゼロに。

2人がかりで丸1日費やしていた突き合わせ作業からも解放されました。

最終的な数字としては、経理部門だけで年間360時間もの業務時間を短縮。

人件費や経費を含めると、年間で640万円ものコスト削減に成功したのです。

現在、同社では当時よりも現場数や取引先が増加しているようですが、経理の人員を増やすことなくスムーズに対応できているそうです。

現場の担当者からも「自分のペースで業務に向き合えるようになった」との声が上がっており、コスト面だけでなく社員の働きやすさ(ワークライフバランス)の向上にも直結する変化を遂げました。

2. コンサル視点での考察:なぜこれほどの効果が出たのか?

同社の事例がこれほどの成果を上げた理由は、ツールを「点」ではなく、業務全体の「線」として捉える視点を持っていたからと言えます。

では、どのようにしてシステムを自社の基盤と連動させ、大きな効果を引き出したのか。

コンサルタントの視点からその成功の理由をロジカルに紐解きます。

ポイント① ツール(点)ではなく、業務プロセス(線)で捉える

多くの企業が陥りがちなDXの失敗パターンに、「請求書をPDFで受け取るようにしただけで満足してしまう」というものがあります。

これでは、入り口がデジタルになっただけで、その後会計ソフトへ手入力する手間や、ネットバンキングへの振込データの再入力といった手作業が残ってしまいます。

同社のDX成功の理由は、こうした部分最適に留まらなかった点にあります。

BtoBプラットフォーム 請求書というツールの導入を検討する段階から、すでに自社で稼働していた会計ソフトやネットバンキングといった、企業の会計基盤と連携させることを前提にリサーチを進めていました。

請求書の受け取りから、会計ソフトへのデータ連携、そしてネットバンキングによる支払・振込処理まで、バラバラだった業務をデータという共通言語でつなぎ、一気通貫の「一本の線」にしたことこそが、大きな効率化を生み出した最大の理由です。

ポイント② 会計基盤の連動がもたらす4つのDXメリット

システム同士を連携させ、会計業務の全体最適化を達成したことで、具体的には以下の4つのメリットが生まれています。

  1. 会計ソフト・ネットバンキング等とのデータ連携

    常務取締役の末吉氏が「すでに使用していたツールと連携して使用できるものをリサーチしていた」と述べている通り、既存システムとの相性を最優先したことで、導入後のスムーズな自動化が実現しました。

  2. 手入力・転記ミスの完全撲滅

    従来は2人一組で1日がかりで行っていた目視の突き合わせ作業が、システム間のデータ連動によって不要になりました。

    転記・入力ミスといったヒューマンエラーはゼロになり、経理担当者の心理的負担も大幅に軽減されています。

  3. 振込総額の事前把握(資金管理の高度化)

    これまでは全ての集計作業が終わるまで見えなかった当月の振込総額が、データ連携によって事前に一目で確認できるようになりました。

    これにより、経理・財務面での資金準備に大きな余裕が生まれています。

  4. インボイス制度へのスムーズな対応

    基盤となる業務プロセスが最初からデジタルでつながっていたからこそ、近年の複雑なインボイス制度への対応も、現場に大きな混乱を起こすことなくスムーズに移行することができました。

3. あなたの会社で"つながる会計DX"を始めるためのファーストステップ

同社の成功事例を見て、「自社でも年間数百万円のコストや時間を削減したい」と感じた方も多いかもしれません。

しかし、何から手を付ければいいか分からず立ち止まってしまうケースは少なくありません。

会計DXを失敗させないためにの、具体的な2つのステップを解説します。

ステップ① 現在の業務フローを一本の線で書き出す

最初のステップは、現在の業務の流れを可視化することです。

請求書が会社に届いてから、誰が開封し、誰が承認し、最終的に会計ソフトへの入力やネットバンキングでの振り込みが完了するまでの一連のプロセスを、紙に一本の線で書き出してみましょう。

注目すべきは、データが途切れて手作業が発生しているポイントです。

  • ここでPDFを見ながら数値を手入力している

  • ここで紙の束を目視チェックしている

という場所を見つけ出すことが、業務改善のスタートラインになります。

どこを繋げば二重チェックを無くせるか?を意識することが大切です。


ステップ② 拡張性・連携性(CSVやAPI)を最優先でツールを選ぶ

手作業のポイントが見つかったら、いよいよツールの選定です。

ここで最も重要なのは、価格の安さや請求書を電子化できるという単体機能だけで選ばないことです。

最優先すべき基準は、今自社で使っている会計ソフトやネットバンキングと、データ連携(CSV出力やAPI連携)ができるか?という点にあります。

入り口のシステムがどれほど優秀でも、既存の会計システムと繋がらなければ、結局その間で手入力という無駄な作業が生まれてしまいます。

ツールを選ぶ際は、ベンダーに「自社が使っている〇〇という会計ソフトに、そのままデータを取り込めますか?」と必ず確認するようにしましょう。

連携性こそが、投資対効果を最大化する鍵となります。

まとめ:システムに振り回されない、全体最適を目指して

大鏡建設さんの事例は、請求書の受け取りから支払・振込処理までを一気通貫のデジタルな線で繋ぐことで、年間640万円ものコスト削減と大幅な業務時間短縮を実現した、非常に分かりやすいDXの成功モデルです。

同社が成功した最大の要因は、ツールという道具の導入を目的化せず、自社の会計基盤との連携(全体最適)を一貫して追求した点にあります。

「自社に合うシステムが分からない」「現場が使ってくれない」「業務フローのどこがボトルネックか見極められない」といったDXの壁を乗り越える鍵は、実はこうした先進企業の実践のプロセスの中にたくさん隠されています。

今回ご紹介した事例が示すように、人がより本質的でクリエイティブな業務に集中してこそ、投資に見合うだけの確かな成果が生まれます。

貴社が”つながる会計DX”へと踏み出すためのインスピレーションとして、本記事が業務改善の第一歩にお役立ていただければ幸いです。

<参照URL>

【ResorTech Okinawa】請求書処理、半月がかりが1週間に。沖縄の建設企業が実現した年間コスト640万円削減の裏側【大鏡建設株式会社】


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