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やまうち しょうご
株式会社デジタルフォワード代表取締役/DXコンサルタント。旅行代理店からIT業界へ転身。Booking.com(外資IT)、アクセンチュア(外資コンサル)、CYDAS(日系IT)、フリーランスPMでの実務経験を経て株式会社デジタルフォワードを設立。業務改善・ツール導入・自動化支援を展開。伴走型コンサルとして中小企業を支援。英日バイリンガルでの対応も可能で、研修講師や戦略立案支援も行う。沖縄県在住。
こんにちは。デジタルフォワードの山内です。
沖縄県の観光・サービス業の経営者さまとお話ししていると、「人手不足が限界にきている」という声とともに、ITやAIを入れると、長年培ってきた温かい接客が失われてしまうのではないか?という不安を耳にします。
たしかに、効率化だけを追い求めて、自社の強みである「おもてなし」が機械的で冷たいものになってしまっては本末転倒です。
しかし、その不安を払拭し、むしろITの力でおもてなしを進化させている素晴らしい事例があります。
香川県高松市で明治10年から140年以上続く老舗ホテル、「株式会社川六」さんの取り組みです。
今回は、同社が公開しているDX戦略レポートの事実を紐解きながら、単なるコスト削減ではない、地方の観光業が生き残るための「おもてなし進化型DX」の本質に迫ります。
DXの成果というと「作業時間が〇〇時間減った」という話に終始しがちですが、川六さんの事例は、これまでのホテル経営の常識を覆すような驚異的な数字に溢れています。
同社はDXの推進により、従業員一人あたりの月平均残業時間を3時間54分にまで削減し、離職率も6.5%にまで劇的に低下させました。
しかし、経営視点で本当に注目すべきは、残業が減ったことそのものではありません。
事務作業から解放されたフロントスタッフたちが、空いた時間と心の余裕を使って自ら情報発信に取り組み、なんと自社YouTubeチャンネルの登録者数12,000人を突破させているのです。
システム化で浮いた時間を、人間にしかできない接客の向上や、クリエイティブな販促活動へ再投資できたこと。
これこそが、ITを活用して新たな価値を生み出すDXの真骨頂だと感じます。
もう一つの驚くべき事実が、バックオフィスの生産性の高さです。
一般的に、会社の売上が伸びれば、それに比例して経理や事務の人員も増やさざるを得ません。
しかし同社は、ホテルシステムと会計システムをデータで連携させ、入出金や売上日報などのバックオフィス業務をできる限り自動化しました。
その結果、現在売上30億円規模の企業の経理業務を、在宅・週3日勤務の社員1名だけで回すことに成功しています。
沖縄でもバックオフィス人材の採用難は深刻です。
しかしこの事例は、時給を上げて人を採用するのではなく、人を増やさなくても回る仕組みを構築することが先決であるということを物語っています。

川六さんがここまでの成果を出せた裏側には、ITツールの導入にとどまらない、組織づくりの工夫が存在します。
沖縄の観光・サービス業の皆さまにも明日から真似していただきたい、経営と現場を繋ぐ「3つの仕掛け」をDXコンサルの視点で解説します。
最新のAIを入れる前に、同社が最初に取り組んだのは、徹底的な業務の断捨離でした。
かつてのフロント業務は、予約が入るたびに印刷し、手書きで転記し、ファイルを並べ替え、保管するというアナログな作業だらけで、チェックアウトまでに実に13もの工程が存在していました。
同社は、ホテルシステムと周辺機器(自動精算機など)をデータで連携させることで、この無駄な工程を一気に6工程へと半減させたのです。
【💡ここがなるほど!】
DXの第一歩は、現場を縛っている無駄な手作業を断捨離することです。
現場が本来の接客に集中できるためのシステム連携が完了して初めて、次のステップ(AI活用や販促活動)に進む余裕が生まれます。
ベテラン社員はITが苦手だから、新しいシステムは定着しない。
これは、多くの経営者から聞かれる一番の悩みです。
しかし同社では、60歳のベテランを含むフロントスタッフ全員がAI(生成AI・RAG)の勉強会に参加し、勉強会を通じて300個もの業務活用アイデアを自分たちで作り出しています。
なぜそんなことが可能なのか?
その理由は、経営陣が掲げた「4つのDX行動指針」にあります。
質より量(完璧さよりスピードを優先)
失敗OK(計画より学習を優先する)
データドリブン(事実や数字で即断即決)
スプリント開発(週次会議で進捗確認)
【💡ここがなるほど!】
ベテラン社員がITを嫌がる本当の理由は、年齢ではなく失敗して怒られたり、恥をかいたりすることへの恐怖です。
経営トップが「失敗してもいいから、まず触ってみよう」という心理的安全性を作ることこそが、DX推進の最大の鍵となります。
川六さんのDX戦略の根底には、「Augmented Hospitality(拡張されたおもてなし)」という明確なビジョンがあります。
それは、デジタルを裏方(黒子)とし使い、AIに「作業」を代行させることで、人は「判断」と「温かいおもてなし」に特化するという考え方です。
システムが自動でチェックイン手続きや経理処理を終わらせてくれるからこそ、スタッフはお客様の顔を見て笑顔で挨拶し、ちょっとした会話を楽しむ心の余裕を持つことができます。
【💡ここがなるほど!】
IT化すると温かみが減るというのは大きな誤解です。
実際はまったく逆で、人間がやらなくてもいい事務作業に追われているからこそ、温かい接客をする余裕が奪われているのす。
テクノロジーは、ホテルやサービス業が最も大切にする「おもてなしの心」を守り育てるためのツールなのです。

「ウチは接客業だからIT化は難しい」
「ベテランスタッフが多いから最新システムは無理だ」——
そう考えて、デジタル化を踏みとどまっている経営者さまは少なくありません。
しかし、川六さんの事例から学べるのは、DXをしないこと(手作業を残し続けること)こそが、接客業にとって最大の経営リスクになっているという事実です。
自社の現場が今、何に時間とエネルギーを使っているか、以下の3つのポイントで振り返ってみてください。
[ ] お客様と笑顔で会話する時間よりも、パソコン入力や紙への転記・事務作業の時間が長くなっていないか?
[ ] 「ベテランだから」という理由で、その人にしか分からない業務を放置していないか?
[ ] 業務効率化で浮いた時間を、何に使うか?を現場と共有できているか?
もし1つでも該当する項目があるなら、そこが御社の「おもてなし」をさらに磨き、スタッフの離職を防ぐための伸びしろです。
川六の宝田社長が掲げる言葉に、「変わらないために、変わり続ける」というものがあります。
老舗の良さ、温かい接客、地域やお客様を思う心。
そうした「変わってはいけない伝統」を守り抜くためにこそ、時代に合わせて「変えるべき手法」を取り入れる必要があるのです。
デジタル化すると温かみがなくなるというのは錯覚で、デジタル(AI)に作業を任せるからこそ、人にしかできない温かいサービスに集中できる。
まずは、現場に「笑顔になれる余裕」を生み出すにはどうしたら良いか?
その答えを探す小さな一歩こそが、これからの時代に選ばれ続ける温かい組織づくりの始まりです。
<この記事の参照資料>
事例: DX戦略レポート2026【株式会社川六】
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