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やまうち しょうご
株式会社デジタルフォワード代表取締役/DXコンサルタント。旅行代理店からIT業界へ転身。Booking.com(外資IT)、アクセンチュア(外資コンサル)、CYDAS(日系IT)、フリーランスPMでの実務経験を経て株式会社デジタルフォワードを設立。業務改善・ツール導入・自動化支援を展開。伴走型コンサルとして中小企業を支援。英日バイリンガルでの対応も可能で、研修講師や戦略立案支援も行う。沖縄県在住。
こんにちは。デジタルフォワードの山内です。
長年続く企業の経営者さまから「IT化すると老舗の伝統や、現場の手作業の良さが失われるのではないか?」というご相談がありました。
効率最優先のDX事例ばかりが目につくため、自社の経営スタイルには合わないと感じてしまうのも無理はありません。
ですが、全国の成功事例の中には、伝統やこだわりを守るためにデジタルを武器にしている中小企業のヒントがたくさんあります。
そこで、DXコンサルタントである私の視点で掘り下げ、中小企業の皆さまに役立つ、実践的なヒントを紐解いていきます。
今回は、福井県でコンビニ事業や地域商社事業を展開する、創業450年の老舗、「株式会社大津屋」さんの事例です。
同社がAIを活用して利益率を劇的に改善し、さらには新会社の設立にまで至ったプロセスには、経営者が学ぶべき本質が詰まっています。
結論からお伝えすると、同社がAI活用で利益率を改善できた理由は、現場の従業員が最も苦しんでいる明確なボトルネックを解消することにフォーカスしたからです。
同社は、自社の店舗事業における最大の弱点であり、従業員の離職や利益の機会損失を生み出していた「惣菜の量り売りレジ業務」という課題に対して、ピンポイントにAI画像認識という技術を掛け合わせました。
まさに、現場ファーストがもたらした一つの正解と言えます。
同社が運営するダイニングコンビニでは、お客様が好きな惣菜を好きなだけ容器に盛り付けられる「量り売り」が大きな人気を集めていました。
しかし、この画期的なサービスの裏で、現場のレジカウンターは崩壊寸前だったのです。
店頭に並ぶ惣菜は実に約70種類。しかも、100g当たりの価格は商品ごとにバラバラです。
レジを担当する従業員は、容器の中身を一目で見分けた上で、それぞれの正しい価格をレジに入力しなければなりませんでした。
当然、新人アルバイトがいきなり70種類もの惣菜を見分けるのは不可能です。
「レジ業務のプレッシャーに耐えられない」という原因で退職してしまうスタッフが後を絶ちませんでした。
人手不足が深刻化する中小企業において、現場への過度な業務負荷は見過ごせない大きな痛手となります。
さらに深刻だったのは、店舗の適正利益が削られていた点です。
レジが混雑してくると、焦ったスタッフは「お客様を待たせてはいけない」「間違えて高い料金を請求してトラブルになるよりはマシだ」と考え、種類が分からない惣菜を悪意なく一番安い惣菜の価格で打ち込んで会計していました。
この無意識の値引き販売により、売上は立っているのに利益が残らないという、経営の機会損失が日常的に発生していたのです。
現場の疲弊と利益の流出を解消することこそが、同社のDXの出発点でした。

この深刻な課題を解決するために、同社は2つの側面からDXを導入しました。
「現場の負担を減らすDX」 と 「新しい事業を創るDX」です。
まず着手したのが、「現場の負担を減らすDX」です。
同社は計量機器の大手メーカー等と共同で、AIの画像認識によって惣菜の種類を瞬時に判別する「量り売り会計システム」を開発しました。
お客様が惣菜をのせた皿を所定の場所に置くだけで、AIがまたたく間に商品を特定します。
どんな盛り付け方をされても正確に認識できるよう、ありとあらゆるパターンをAIに学習させました。
2019年から順次導入されたこのシステムにより、従業員の心理的負担は劇的に軽減。
さらに、これまで発生していた「一番安い価格での打ち込み」が完全に解消され、店舗は本来得るべき適正な利益を確実に手に入れられるようになりました。
そして、次なる一手として「新しい事業を創るDX」へと舵を切ります。
着目したのは、地方の大きな原動力である「ふるさと納税」の支援事業(中間業務の受託)でした。
物産館の運営などを通じて培った、地元の事業者との繋がりという強みを活かし、2020年から自治体の業務委託をスタート。
そこへさらに加速をかけるため、当時話題となっていたChatGPTを活用した「AIふるさと納税コンシェルジュ」をスタートアップと共同開発しました。
寄附者が予算や好みのジャンルを入力すると、AIが最適な返礼品を無料で提案してくれるこのサービスは、膨大な選択肢に悩む寄附者の課題を解決。
結果として支援自治体への寄附額は軒並み増加し、ある自治体では支援開始前と比べて寄附額が約1.7倍、別の自治体では実に16倍という驚異的な成長を記録しました。
そして2025年4月には、この事業を専門で行う新会社「HAQTSUYA(ハックツヤ)」として分社化を達成しています。
DXコンサルの視点から、中小企業の経営者が自社に横展開する際、押さえるべきポイントは次の2点です。
多くの企業が「何か良いITツールはないか?」と技術起点でDXを考えがちですが、同社の事例では、「惣菜の種類が多すぎてレジが回らない」という、現場の問題特定から始まっています。
解決したい課題が明確だったからこそ、「AI画像認識」という最適な手段をピンポイントで選ぶことができました。
経営者がまず目を向けるべきなのは、「どこで業務が滞っているのか」「何がスタッフの負担になっているのか」という一番の課題を突き止めることに他なりません。
現場を苦しめていた「レジの暗記負担や、間違えて安く売ってしまう罪悪感」を解消する補助ツールであったからこそ、老舗の現場でも大きな反発を招くことなくスムーズに浸透していったのではないでしょうか。
そして最も秀逸なのは、DXのステップです。
同社は最初から「生成AIを使った新ビジネス」を目論んでいたわけではありません。
まずはレジ業務のAI化で現場の負担を減らし、適正な利益を確保しました。
これによって生まれた資金的な余裕と時間のゆとり、そしてデジタル活用への自信があったからこそ、ふるさと納税という「新しい事業を創るDX」への大胆な投資が可能になり、最終的には新会社の設立まで繋がったのです。
老舗の伝統と最先端のAIは決して反するものではありません。
むしろ、伝統を守り、地域に貢献し続けるためにこそ、中小企業はデジタルを活用するべきだと思います。
同社が成し遂げた新会社設立や寄附額16倍という華々しい成果だけを見ると、自社とは住む世界が違うと感じるかもしれませんが、そのイノベーションの出発点は、決して大層なものではありませんでした。
「新人アルバイトがレジで困っている」「悪意のない値引きで利益が減っている」という、どこの会社にもあるような課題がきっかけです。
御社の現場にも、デジタルという道具を使うことで、もっと輝かせられる手作業や伝統が眠っているのではないでしょうか。
<この記事の参照URL>
事例:創業450年の企業がAIを活用した既存ビジネスの「深化」と新規ビジネスの「進化」で地域創生に貢献へ【株式会社大津屋(福井県福井市)】
【独立行政法人中小企業基盤整備機構】
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