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やまうち しょうご
株式会社デジタルフォワード代表取締役/DXコンサルタント。旅行代理店からIT業界へ転身。Booking.com(外資IT)、アクセンチュア(外資コンサル)、CYDAS(日系IT)、フリーランスPMでの実務経験を経て株式会社デジタルフォワードを設立。業務改善・ツール導入・自動化支援を展開。伴走型コンサルとして中小企業を支援。英日バイリンガルでの対応も可能で、研修講師や戦略立案支援も行う。沖縄県在住。
こんにちは。デジタルフォワードの山内です。
ニュースで話題になった「マンジャロ」という糖尿病治療薬の件をご存知でしょうか。
本来は治療のための薬ですが、SNSなどで「痩せる薬」として広まり、オンライン診療の手軽さも相まって安易に処方された結果、800件以上の副作用事例が報告されているという報道がありました。
(※読売新聞オンライン 2026/06/02 報道より)
このニュースを見て、「モラルがない」「オンライン診療は問題だ」と片付けてしまうのは簡単ですが、経営を担う立場からすると、少し違った構造が見えてきます。
今回の記事では、この構造を企業のDX(IT化)に当てはめ、システムをどう切り捨てるか?という経営判断について解説します。
スマホ一つで完結するオンライン診療という仕組み自体は、通院の負担を減らす素晴らしいテクノロジーです。
しかし、その便利さが一人歩きし、患者を健康にするという本来の目的からズレてしまったとき、私たちはその仕組みにそのままアクセルを踏み続けていいのでしょうか。
良い仕組みでも、使われ方が本来の目的からズレた場合、その仕組みを続けること自体を疑う必要がある。
実はこれ、中小企業のDXの現場でも、全く同じことが起きています。
業務を効率化するために、何でもできる高機能なシステムを入れたけど、現場の社員は画面の操作に戸惑い、かえって残業が増えてしまった。
このようなケースは決して珍しくありません。
最新のシステムという「手段」を導入することばかりに目が行き、それを使う人間の現実や、本来の「業務効率化」という目的を無視してしまった結果です。
世の中には、「このシステムを導入しましょう」「AIを活用しましょう」「DXを進めないと時代遅れになります」という情報はたくさんあります。
しかし、導入したけれど自社には合わなかった場合、いつ、どうやって撤退するのか?という議論はほとんど聞こえてきません。
システムは導入して終わりではなく、運用が始まってからが本番です。
そして、どれだけ評判の良いシステムであっても、自社の風土や現場のスキルに合わない仕組みは必ず存在します。
今、経営者に求められているのは、導入したITツールが自社に合わないと分かったとき、いつ・何を基準に・どうやって縮小や停止、再設計をするかを考えるDX撤退の視点です。
システムを導入したことより、合わないと分かったシステムをいかに手放すことができるか。
それが、これからの経営における重要な手腕となります。
「このシステム、誰も使っていないな」「導入前より逆に手間が増えているぞ」と薄々感づいているのに、なぜシステムを止められないのか。
そこには、経営者特有の心理的なハードルが存在します。
最も多いのが、「初期費用に数百万円も払ったんだから、なんとか使い続けないともったいない」という心理です。
しかし、過去にいくら投資したかと、これから先も使い続けるべきかは全くの別問題です。成
果の出ない仕組みを無理に使い続けることで、毎月の保守費用だけでなく、現場のにかかる無駄な時間(人件費)まで奪われ続けることになります。
過去の投資額にとらわれてシステムを維持し続ける方が、結果的に経営リスクは大きくなります。
せっかくデジタル化したのに、アナログや古いやり方に戻したら他社に遅れをとるという恐怖感も、撤退を遅らせる原因です。
また、システム導入を決裁したのが社長自身である場合、「あの選択は間違っていた」と認めることへの心理的抵抗や、「やっと操作を覚えたのにまた変えるの?」という現場からの反発を恐れる気持ちもあるはずです。
しかし、合わないツールを手放すことはDXが失敗したのではなく、経営資源の正しい再配置です。
無駄を省くことこそが、真の効率化につながります。

自社のシステムが撤退や見直しのタイミングを迎えているかどうかを判断するためには、現場のリアルな状況を直視する必要があります。
以下の5つのサインが出ていないか、確認してみてください。
まずは、現場の使われ方に目を向けます。
以下のような状況があれば、黄色信号です。
1. システム導入前より、確認や入力の作業工程が増えている
2. システムがあるのに、現場が裏でExcelや紙、個人のLINEを使って業務を回している
3. 部署内で一部のITに強い社員しか使いこなせておらず、業務が属人化している
これらは、システムが現場の業務フローに合っていない典型的な状態です。
システムを運用するために、現場がわざわざ二重、三重の手間をかけてシステムに合わせるための仕事をしているなら、本末転倒です。
次に、経営の視点から費用対効果を見直します。
4. 毎月の維持費(サブスクリプション費用など)に対して、どんな効果が出ているか説明できない
5. 「なぜこのシステムを使っているのか?」という問いに、「昔決めたから」「とりあえず入れたから」としか答えられない
重要なのは、システム導入で時間削減、売上向上、ミスの防止といった経営成果に直結しているかどうかです。
成果につながらない維持費は、単なる見えない固定費でしかありません。
撤退と聞くと、明日からすべてのシステムを解約し、紙とハンコだけの世界に戻る極端なイメージを持たれるかもしれません。
しかし、DX撤退にはいくつかのレベルがあり、状況に応じて段階的な見直しが可能です。
システムを見直す際、自社の現状に合わせて、以下の5つのレベルから撤退の形を探ってみてください。
レベル1:機能を減らす
パッケージソフトのすべての機能を使おうとせず、自社に必要な機能だけを残し、入力項目を極限まで減らします。
レベル2:利用部署を減らす
全社一斉導入をやめ、実際に成果が出ている部署、またはITリテラシーが追いついている部署だけで使います。
レベル3:別ツールへ変更する
高機能で複雑なシステムから、チャットツールやシンプルなクラウドサービスなど、現場が迷わず使えるものへ乗り換えます。
レベル4:一度やめる
システムの問題ではなく、業務フロー自体が複雑すぎる可能性があります。
一度システム利用を停止し、業務の棚卸しをしてから必要に応じて再導入します。
レベル5:完全撤退する
費用対効果が全く合わなければ、思い切って契約を終了します。
DX撤退は、自社にとって成果の出ない方法をやめることと捉えておきましょう。

もし今、惰性で使い続けているシステムがあるなら、決断を下す前に以下の3つの質問を自問自答してみてください。
質問1:このシステムを今日初めて知ったとして、今の価格でもう一度契約するか?
過去の投資額(サンクコスト)を一旦忘れ、現在の価値だけでフラットに判断するための質問です。
質問2:このシステムが明日突然なくなったら、自社のどの業務が本当に困るか?
誰も困らない、あるいはExcelで数分で代替できるなら、そのシステムはすでに役割を終えています。
質問3:このシステムによって、時間・コスト・売上・品質の何が改善したのか?
「なんとなく便利になった気がする」ではなく、具体的な経営指標に貢献しているかを見極めます。
システムにお金を払い続ける価値があるかどうかは、これから先、払い続ける価値があるかどうかで決まります。
上記3つの質問を自分自身に問いかけてみましょう。
新しいITツールやAIを試すことは、これからの企業にとって不可欠です。
打席に立たなければ、ヒットは打てません。
私は撤退することの重要性を示しているだけで、決してデジタル化を否定しているわけではありません。
DX経営において本当に求められるのは、自社の現場に必要なものを残し、必要のないものを手放す決断力こそ、真のIT化の第一歩です。
せっかくシステムを導入したのに現場が使ってくれない
毎月のSaaS利用料だけが増えていき、費用対効果が見えない
今の仕組みを一度リセットすべきか、それともこのまま運用を改善すべきか迷っている
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