2026/10/5

DXで逆に業務が増えた・手間がかかるはなぜ起きる?失敗を防ぐ業務見直しと引き算思考法

Writer

やまうち しょうご

株式会社デジタルフォワード代表取締役/DXコンサルタント。旅行代理店からIT業界へ転身。Booking.com(外資IT)、アクセンチュア(外資コンサル)、CYDAS(日系IT)、フリーランスPMでの実務経験を経て株式会社デジタルフォワードを設立。業務改善・ツール導入・自動化支援を展開。伴走型コンサルとして中小企業を支援。英日バイリンガルでの対応も可能で、研修講師や戦略立案支援も行う。沖縄県在住。

「業務を効率化するためにツールを導入したのに、なぜか残業が減らない」

「現場から『前のやり方のほうが早かった』と不満が噴出し、社内の雰囲気が悪くなった」

中小企業のDX推進において、このような悲鳴は決して珍しくありません。

業務を楽にするためにデジタル化を進めたはずが、結果として現場の手間とストレスを増やしてしまう――いわゆる「DXの逆効果」です。

なぜ、良かれと思って導入した仕組みが現場の足を引っ張ってしまうのでしょうか。

結論からいうと、最も多い理由のひとつが、古いやり方や無駄な業務を1つも捨てずに、新しい仕組みだけを上に積み上げているからです。

DXで本当に業務を楽にしたいのであれば、最初に必要なのは「業務の断捨離」です。

本記事では、なぜデジタル化で業務が増えてしまうのかという構造的な原因と、失敗を防ぐための、引き算思考法について解説します。

1. 「DXで業務が増えた」現場で起きている2大摩擦

「デジタル化したのに手間が増えた」と現場が疲弊している会社では、ほぼ例外なく次の2つの摩擦が起きています。

自社の状況と照らし合わせてみてください。

①「念のため」が生む紙とツールの二重管理

現場の業務量を2倍に跳ね上げている最大の元凶が、この二重管理です。

新しいクラウドシステムを導入し、画面上で日報や申請書を入力できるようになったはずなのに、なぜか現場では以下のような光景が繰り広げられます。

  • システムに入力したデータを、わざわざプリンターで紙に印刷する

  • 印刷した紙をバインダーに閉じ、上長が赤ペンでチェックしてハンコを押す

  • 「万が一データが消えたら困るから」「税務調査で紙を出せと言われたら不安だから」と、紙のファイルもキャビネットに保管し続ける

これでは効率化どころか、単にシステムへの入力という新しい作業が1つ増えただけです。

この問題の本質は、ITへの不信感から来る「念のため」という過剰防衛にあります。

「念のため紙も残す」「念のため従来のやり方も併用する」という曖昧な判断が、現場の負担を倍増させているのです。

② ツールへの入力・転記に追われ本来の仕事が圧迫される

もう1つの典型例が、現場が「ツールに使われる側」になってしまうケースです。

経営陣や推進担当者は業務の見える化を目指し、細かな案件管理ツールやチャットツールを導入します。

しかし、現場の視点で見るとどうでしょうか。

  • 商談が終わるたび、ツールの細かい項目(進捗率、確度、接触履歴など)を埋めるのに30分かかる

  • 複数のチャットグループから絶え間なく通知が届き、確認と返信だけで午前中が終わる

  • ツールに入力した数値を、週次会議のためにわざわざExcelに手作業で転記し直している

このような状態に陥ると、現場の営業担当者や職人、事務スタッフは「一体何のために仕事をしているのか」と強い不満を抱くようになります。

本来注力すべき顧客への提案や現場の作業の時間が奪われ、管理用の画面を埋めるためだけに残業する羽目になるからです。

業務を楽にするはずのツールが、現場にとっては「監視と報告の手間を増やすお荷物」になってしまっています。

2. なぜ逆効果になるのか?原因は足し算した業務にある

二重管理や入力の手間が発生してしまう根底には、会社全体の進め方に共通する構造的な落とし穴があります。

ただひたすらに「今の仕事の上に、新しい作業を乗っけている」ことが多くの原因です。

① 散らかった部屋に新しい棚を置いても片付かない

業務が整理されていない職場へのシステム導入は、足の踏み場もない散らかった部屋に最新の収納ボックスを買い足すような状態に似ています。

机の上に不要なチラシや使っていない文房具が溢れているとき、棚だけを新しく増やしても部屋は片付きません。

それどころか、床のスペースがさらに削られて身動きが取れなくなります。

業務もまったく同じです。

「誰も目を通していない社内日報」

「形式だけで機能していない二重チェック」

「何のためにあるのか誰も説明できない会議の議事録」

こういった形骸化したやり方を何一つ処分しないまま最新のクラウドツールを押し込むと、現場が混乱するのは当たり前です。

整理整頓の基本は、物を買い足す前に要らないモノを捨てることです。

仕事を減らしたいなら、システムの画面を開く前に、机の上の余計な業務を片付ける必要があります。

②「前のほうが早かった」の正体は、古いやり方への逃げ道

新しいシステムを使い始めると、現場からほぼ100%「昔のやり方のほうが早かった」という声が上がります。

実のところ、最初の数週間〜数カ月間に関して言えば、現場の言い分のほうが正しい場合がほとんどです。

長年慣れ親しんだ紙と手書きのほうが、手癖で処理できるぶん早く終わるからです。

問題は、その初期段階で「やっぱり紙も使えるようにしておこう」と逃げ道を残してしまう点にあります。

人間は楽なほう、慣れているほうに自然と流れます。

紙という使い慣れた逃げ道が残っていれば、新しいツールの操作を覚える苦労を進んで引き受ける人はいません。

その結果、新しいやり方に慣れる期間をいつまでも抜け出せず、旧来の非効率なやり方へ逆戻りしていきます。

3. 手間を削るための「引き算思考法」2つのアプローチ

現場の負担を本当に軽くしたいのであれば、発想を「ツールの追加」から「業務の削り落とし」へと切り替える必要があります。

具体的にどこから手をつけるべきか、2つの視点で業務を見直していきます。

① 効率化する前に、まず「やめる・捨てる」業務を決める

DXを進めるとき、多くの担当者は「どうすればこの日報入力を自動化できるか」「どうすれば承認印を早く回せるか」と考えがちです。

ここで一旦、立ち止まってみてください。

考えるべき順番は「そもそも、この日報自体をまるごと廃止できないか?」「この承認印は何のために押しているのか?」を疑うことです。

  • 誰も読んでおらず、経営判断にも使われていない社内報告書

  • 慣習で毎週続いている、情報共有だけの社内定例ミーティング

  • 「念のため」という理由だけで残している、複数部署への事前回覧

こうした仕事は、どんなに最新の仕組みで自動化したところで、無駄な作業がデジタルに化けただけです。

効率よく処理する方法を考える前に、まずは「これをやめても誰も困らないのではないか?」という視点で、日々の仕事を容赦なくふるいにかけていきます。

② 発生確率の低いリスクに対する「過剰な社内ルール」を削る

もう1つ削るべき対象が、社内に積み重なった過剰防衛のルールです。

数年に1回あるかないかという小さなミスが起きたとき、真面目な会社ほど再発防止と称してチェックリストを増やしたり、承認者の階層を増やしたりします。

  • 数百円の事務用品を買うためだけに、課長と部長の印鑑が必要

  • 万が一のトラブルを警戒して、顧客とのやり取りをすべて紙で印刷してバインダーに保管

  • 担当者が作った見積書を、3人がかりで数字のズレがないか確認


滅多に起きない事故を防ぐために、日常のスピードを極端に落とし、何重もの確認作業を社員全員に強いるのは割に合いません。

1年に1回起こるかどうかのミスのために、残り364日の業務を複雑にするのは本末転倒です。

100%の完璧を目指して業務を重くするのをやめ、ある程度のリスクは許容しながら、社内のルールをできる限り薄く削っていく判断が求められます。

4. 現場の抵抗を防ぎ、業務の引き算を定着させる実践ポイント

どれだけ正しい業務見直しであっても、長年の習慣を変えられる現場側には強い警戒感やストレスが生じます。

経営陣や推進担当者が孤立せず、スムーズに業務の引き算を定着させていくための進め方をまとめました。

① 全社一斉を避け、1つの業務から完全に旧ルートを断つ

会社全体の業務を一気に変えようとすると、あらゆる部署から混乱と不満の声が上がって頓挫します。

まずは「交通費の精算だけ」「社内稟議の1種類だけ」といったように、影響範囲の狭い単一の業務を選び、そこから手をつけます。

このとき徹底すべきポイントは、決めた1つの業務に関しては、期限を設けて古いやり方を物理的になくしてしまうことです。

紙の申請用紙をキャビネットから引き上げ、共有フォルダの旧フォーマットを削除します。

「紙でも受け付けます」という逃げ道を意図的に塞がない限り、人は使い慣れた元のやり方へ戻ってしまうからです。

範囲を絞って退路を断ち、「紙がなくても日常の仕事は普通に回る」という実績を小さく1つ作ることが、社内の不安を解く一番の近道になります。

② 業務を減らした先に「何が良くなるのか」を現場と共有する

業務の引き算を進めるとき、現場が心の中で警戒していることがあります。

「余計な仕事を減らしたら、空いた時間にまた別の面倒な仕事を詰め込まれるのではないか」という疑念です。

会社都合の合理化にしか見えない改革に、現場が自発的に協力することはありません。

仕事を削った先に、自分たちの働き方がどう楽になるのかを言葉にして伝える必要があります。

「月末の無駄な集計作業をなくして、全員が定時で帰れる日を増やす」

「日報の打ち込み時間を削って、顧客対応や現場の作業に落ち着いて集中できるようにする」

効率化の目的を会社が管理するためから、現場が余計なストレスから解放されるためへと位置づけ直すことで、現場の態度は「やらされ仕事」から協力的な姿勢へと変わっていきます。

5. その業務、本当にデジタル化してまで残す価値がありますか?

DXという言葉が定着するにつれ、多くの会社が「どんなツールを使うか」「どうやってIT化するか」という道具に気を取られがちです。

ですが、机の上に積まれた書類や、何年も形式的に続いている社内ルールを前にして、一度冷静に問いかけてみてください。

その業務は、本当にわざわざお金と時間をかけてまで、デジタルに残す価値があるものでしょうか。

本当はとっくに役目を終えているのに、「昔からやっているから」「やめると何となく不安だから」という理由だけで残している作業がたくさんあるはずです。

そうした無駄な荷物を両手に抱えたままITツールをすれば、現場はその重みに耐えかねて立ち止まってしまうのは自然な結果と言えます。

まずは、自社のオフィスを見渡して、引き出しの奥やパソコンのデスクトップにある「もし明日からやめても、実は誰も困らない作業」を1つ見つけて手放してみましょう。

業務の見直しは、そこが大切な第一歩です。

< 自社の状況を客観的に見直してみたい方へ >

「自社のDXがどの段階で止まっているのか」
「現場のどこにボトルネックがあるのか」

を客観的に整理したい方は、以下のチェックリストもあわせてご活用ください。

→ [中小企業のDXはなぜ進まない?現場の「あるある課題」現在地チェックリスト]

※ 社内だけでは「何を捨てて、何を残すべきか」の判断がつかない場合や、業務の整理に行き詰まった際は、第三者の視点を入れるのもひとつの方法です。

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