2026/6/24

【コラム】単なる労働力から大切な地域住民へ。沖縄の未来を救う多文化共生

Writer

やまうち しょうご

株式会社デジタルフォワード代表取締役/DXコンサルタント。旅行代理店からIT業界へ転身。Booking.com(外資IT)、アクセンチュア(外資コンサル)、CYDAS(日系IT)、フリーランスPMでの実務経験を経て株式会社デジタルフォワードを設立。業務改善・ツール導入・自動化支援を展開。伴走型コンサルとして中小企業を支援。英日バイリンガルでの対応も可能で、研修講師や戦略立案支援も行う。沖縄県在住。


こんにちは。
デジタルフォワードの山内です。

深刻な人手不足に悩む観光立県 沖縄。

今や恩納村のリゾートホテルや那覇の飲食店、県内の建設現場など、街のいたるところで外国人スタッフが働く姿を見かけるようになりました。

しかし、現場の経営者様から悲痛な嘆きを耳にすることが増えています。 「せっかく仕事を覚えて、これからという時に『東京のほうが給料がいいから』と、都市圏へ転職してしまうんだ」

多くの人は、沖縄は賃金が低いから仕方がないと諦めてしまいがちです。しかし、本当にそれだけが理由でしょうか?

Booking.comやアクセンチュアで多国籍チームと活動した私は、この問題の裏には「目に見えない壁」があると考えています。

今回は、沖縄の人材流出を防ぐためのあり方について、経営者のみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

1. なぜ、沖縄で育てた優秀な外国人材が都市圏へ流出してしまうのか?

外国人スタッフは、今や沖縄の産業を共に支える心強いパートナーです。

しかし、現場を悩ませているのが、彼らが短期間で東京などの都市圏へ移ってしまう「人材流出」の現実です。

1-1. 賃金格差だけではない、都市圏へ向かう本当の理由

給与が高いから東京へ行く。

これは一見、非常に筋が通った理由に見えます。

しかし、彼らが島を離れてしまう本当の理由は、決してお金だけではありません。

見落とされがちなのが、言葉の壁や文化の違いにぶつかった時、相談できる相手がおらず孤立してしまうという現実です。

例えば、恩納村のリゾートホテルで働き始めたベトナムやネパールからの若者を想像してみてください。

仕事中は翻訳アプリ越しに業務指示が飛び交い、休憩時間の従業員食堂では言葉が通じないため同郷の仲間とだけ固まるか、一人スマートフォンを見つめる日々。

休日は行く場所もなくアパートに閉じこもる――。

このような環境で、「この会社で、この土地でずっと頑張ろう!」と思えるでしょうか。

きっと、少しでも環境が良さそうで、同郷のコミュニティが大きな大都市へ移りたくなるはずです。

1-2. 「労働力」として消費する企業、「地域住民」として迎える


多くの企業が、外国人を人手不足を埋めるための労働力(コスト)として捉えてしまいがちです。

しかし、どれだけ沖縄の海が綺麗でも、どれだけゆいまーる(助け合い)の精神があると言われていても、日々の生活で誰とも心が通わなければ、孤独感は募るばかりです。

優秀な人材に「ここが私の居場所だ」と感じてもらうために必要なのは、彼らを私たちと同じように沖縄で暮らし、生活を営む「地域住民」として迎える姿勢です。

一時的な雇用関係を超えて、「ここでずっと働きたい」という愛着をいかに育てるかが求められています。

2. 翻訳アプリを配るだけでは防げない、現場の摩擦

外国人材の定着に向けて受け入れ体制を整えようと考えたとき、多くの経営者様が真っ先に思い浮かべるのが、ITツールの導入です。

2-1. システム導入がゴールになってしまう落とし穴

「多言語対応の業務連絡アプリを導入しよう」「翻訳ツールを配ってコミュニケーションを円滑にしよう」と、まずはシステムを取り入れようとします。

しかし、お金をかけてツールを導入したものの、数ヶ月もすれば誰も使わなくなってしまったという例は後を絶ちません。

例えば、那覇市内の飲食店で翻訳アプリを導入したものの、細かいニュアンスが伝わらず、結局日本人スタッフが身振り手振りで教えた方が早いと元の状態に戻ってしまったという話も耳にします。

たとえ優秀な翻訳アプリを導入しても、それを使う外国人、指示を出す日本人スタッフが日常の中でどう繋がり、どう運用していくかという「人と人の関わり方」が設計されていなければ、ただの宝の持ち腐れになってしまいます。

2-2. 現場に必要なのは、効率化ではなく安心


生まれ育った国も言葉も異なる人間同士が働く現場において、本当に必要なのは業務の効率化ではありません。

お互いがストレスなく、安心して過ごせる環境です。

相手が何を考えているか分からない外国人側の不安。

そして、「言葉が通じないからトラブルが怖い」という日本人側の不安。

こうした心の壁を置き去りにしたまま、このツールを使って連絡してと押し付けても、距離は縮まるどころか、むしろ心の溝を深めてしまいます。

3. 人材を島に引き留める、デジタルの本当の使い方


では、外国人材を孤立させず、沖縄の地に引き留めるために、私たちはどのような一歩を踏み出すべきなのでしょうか。

3-1. 日常の小さなSOSや感謝を見える化する


デジタルの役割は、単なる翻訳機にとどまりません。

外国人スタッフが抱く日々の小さな困りごと(SOS)や、日本人スタッフからの「ありがとう」という感謝の気持ちを見えやすい形にして、共有する道具として活用すべきです。

例えば、業務の指示を一方的に送るだけでなく、社内SNSに美味しい沖縄そばのお店や母国の郷土料理を、写真付きで紹介し合える場を作る。

あるいは、シフト管理アプリの中に今日の体調や気分をスタンプで押せる機能を設け、悩みがあればすぐに適切なサポート担当者へ繋がる仕組みを作るのも有効です。

こうした仕掛けは、彼らを孤立から守り、「自分は大切にされている」という実感を生み出します。

3-2. デジタルをきっかけに、リアルな関わりを生み出す


本当に必要なのは、私たち日本人の側も彼らの文化や背景を理解しようとする歩み寄りです。

例えば、デジタルを使って地域のエイサー練習やビーチクリーンなどのイベント情報を多言語で発信し、参加のハードルを下げる。

そしてリアルな現場で、地域住民と一緒に汗を流し、笑顔を交わす。

デジタルを使って言葉の壁や見えない壁を取り除くからこそ、リアルな現場でたわいもない挨拶や自然な笑顔が生まれます。

まとめ:相手を理解しようとする一歩から始まる


私たちがこれから迎える未来の沖縄は、今よりもはるかに多様な文化が混ざり合い、お互いを支え合う社会になっているはずです。

本当に変えるべきは、システムでも外国人労働者でもありません。

デジタルという道具を真ん中に置いて、私たち自身が相手を理解しようと一歩踏み出し、歩み寄るためのきっかけを作っていくこと。

そのアナログな人間同士の交流こそが、沖縄から優秀な人材の流出を防ぎ、新しい豊かな共生社会を創る最も確実な道なのだと私は信じています。

沖縄労働局における「外国人雇用状況」の届出状況まとめ
出展:厚生労働省 沖縄労働局


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