Writer
やまうち しょうご
株式会社デジタルフォワード代表取締役/DXコンサルタント。旅行代理店からIT業界へ転身。Booking.com(外資IT)、アクセンチュア(外資コンサル)、CYDAS(日系IT)、フリーランスPMでの実務経験を経て株式会社デジタルフォワードを設立。業務改善・ツール導入・自動化支援を展開。伴走型コンサルとして中小企業を支援。英日バイリンガルでの対応も可能で、研修講師や戦略立案支援も行う。沖縄県在住。
【 今回のポイント 】
先行きが見えない不安は、現場に必要以上の在庫や資材を抱え込ませる過剰投資を引き起こします。
中小企業が今すぐ取り組むべきは、「現場の勘」頼みの調達ではなく、データ連携による「調達プロセスのスリム化」です。
こんにちは、デジタルフォワードの山内です。
Googleが提供するAIツール「NotebookLM」にGoogle Driveとの自動同期機能が追加されるなど、ビジネスを加速させるデジタルツールの進化が日々ニュースを賑わせています。
仕事のドキュメントを書き換えるだけで、AIがいつでも社内の最新情報を追いかけてくれる。
まさにプロセスのスリム化を象徴する素晴らしいアップデートです。
しかし、世の中がこうした最新のテクノロジーに沸く一方で、私たちの足元のビジネスや生活の現場では、全く別の不穏なデータと現場のズレが深刻化しています。
それが、いま各業界を揺るがしている「ナフサショック」です。
一見すると、最先端のITやDXとは無関係に思えるこの時事ニュース。
しかしその構造を深く読み解いていくと、中小企業の経営者が必ず直面する、組織マネジメントの最大の盲点が浮かび上がってきます。
今回は、このナフサショックの本質を解剖しながら、私たちが自社の経営にどう活かすべきかをお話しします。
現在、メディアでも大きく報道されている「ナフサショック」。
石油製品の基礎となる「ナフサ」の供給不安をめぐり、政府の説明と、実際の現場での深刻なモノ不足との間に、驚くほど大きな温度差が生じています。
まずはその冷徹なファクトから整理していきましょう。
ナフサ不足の波紋は、私たちの身近な生活から産業の基盤にまで、目に見えないところで急速に広がっています。
例えば、これからの季節に欠かせないエアコン設置の現場。
配管の断熱材や室外機の設置台など、石油由来の部材が手に入らないことで、設置までに2〜3週間待ちの事態が発生しています。
部材の高騰は電気店の経営を直接圧迫し始めています。
さらに影響は日用品にも及んでいます。
静岡市をはじめ、全国100以上の自治体で指定ゴミ袋の品薄や買いだめが発生し、フリマアプリでの高額転売まで確認される事態に。
ふるさと納税では、家庭用ラップへの寄付件数が前年同月比で約9倍に急増するなど、消費者の間にも動揺が広がっています。
そして最も深刻な打撃を受けているのが住宅業界です。
大手不動産会社が、ナフサを原料とする塗料などの供給不安を理由に、新築マンションの契約者へ引き渡しが遅れる可能性を通知し始めました。
中小の工務店にいたっては、隙間を埋めるコーキング材(ゴム状の資材)やユニットバス、雨どいなどが入荷せず、建築工事が1ヶ月半ほどストップするなど、まさに死活問題となっています。

ここで誰もが抱く疑問があります。
それは、本当に日本国内からそんなにモノが消えてしまっているのか?という点です。
経済産業省をはじめとする政府の主張は一貫して「供給量は足りている」というものです。
政府の計算上、中東以外からの輸入拡大や、国内にある備蓄を換算すれば、破綻するような数字ではないというロジックです。
では、なぜ「あるはずのモノ」が現場に届かないのでしょうか。
原因の一つとされているのが、供給ルートの途中にいる中間加工会社による「出し渋り」です。
将来的な原料不足や、さらなる価格高騰を恐れた中間の加工会社や流通業者が、「今のうちに手元に確保しておきたい」「将来の得意先のためにストップしておこう」と考え、末端のメーカーや現場に対して製品を出し渋る動きが出ているのです。
物自体が物理的に消滅したというよりは、サプライチェーンの途中で人間心理による「目詰まり」が起きている。
これが今回のショックの真の引き金です。
専門家は、政府の「足りている」という主張の危うさをこう指摘します。
「一度ポリエステルなどに加工された在庫を、別の製品(ゴムや塗料など)に作り直すことはできない。大雑把な総量ではなく、製品ごとの細かい在庫の内訳をリアルタイムでチェックしなければ解決しない」と。
政府が「データ(総量)上は問題ない」と画面だけを見て安心している一方で、現場は「目の前のコーキング材が1本もない」という事実で立ち往生している。
この致命的なズレの本質は、情報の不透明さにあります。
先行きが見えない、正確な納期がわからない、次にいつ入るか見通せない。
この不透明さに直面したとき、人間は必ず「恐怖から多めに囲い込む(買いだめする)」という行動に走ります。
これは、一般消費者がゴミ袋を買い占める心理も、中間業者が資材を出し渋る心理も全く同じです。
そしてこの「恐怖による過剰な抱え込み」が、本来なら流通するはずだった流通網をさらに麻痺させ、状況を悪化させるという悪循環を生み出しています。
情報が不透明な環境では、人間は恐怖によって必要以上のリソースを囲い込もうとする。
このナフサショックが証明した人間心理のメカニズムは、実はそっくりそのまま、現代の中小企業の社内でも毎日起きている問題なのです。
ナフサショックの裏にある「先行きが見えない恐怖から、人はモノを囲い込んでしまう」という心理構造。
これは決して、テレビの向こう側の遠いニュースではありません。
実は、まったく同じことが中小企業のオフィスや工場の現場で、形を変えて毎日繰り返されています。
先日、ある中小企業の社長様とお話ししていたときのことです。
雑談の中で、社長様が少し困ったような、驚いたような表情でこうおっしゃいました。
「山内さん、ナフサショックって本当に身近に迫っているんだね。昨日、うちの妻が近所のスーパーに行ったら、本当に指定ゴミ袋がどこも売り切れていて買えなかったって驚いていたよ」
このお話を聞いたとき、私はまさにこれこそが、いま多くの企業が組織のなかで抱えている「ある経営課題」の縮図だと強く感じました。
明日必要なモノが、手に入らないかもしれない
このリアルな生活の危機感は、ビジネスの現場においては、明日必要な資材や情報が、手に入らないかもしれないという、現場担当者の孤独なプレッシャーへと形を変えます。
そしてそのプレッシャーが、企業の経営をじわじわと圧迫する『見えない過剰投資』を生み出す原因になっているのです。
多くの経営者様が「うちの会社は買いだめなんてしていないし、過剰投資もしていない」と思われます。
しかし、現場の業務プロセスを細かく紐解いていくと、意外なところに隠れた買いだめが見つかります。
例えば、
他部署の正確な在庫状況がシステム上で見えないから、念のため多めに発注しておく
取引先からの納期がいつも曖昧だから、来月使う分も今月の予算で確保しておく
過去のデータが残っていないから、担当者の「これくらい必要だろう」という勘で仕入れる
こうした、現場の担当者が良かれと思って行う念のための多めの手配。
これこそが、形を変えた社内の買いだめ現象です。
現場の担当者は、決して会社に損をさせようとして過剰に仕入れているわけではありません。
「もし資材が足りなくて納期が遅れたら、自分が怒られる」
「自分が責められるかもしれない」
という、足りない恐怖から身を守るために、データを疑い、自分の勘を信じてリソースを余分に囲い込んでしまうのです。
ここで経営者が真摯に向き合うべきは、これは現場の担当者のスキルの問題ではない、という点です。
ナフサショックで政府が「在庫はある」と言い張っても現場が信じなかったのと同じで、経営層が現場に対して「安心できる仕組み(正確なデータ)」を用意していないことこそが根本的な原因です。
情報が不透明で、共有もされていない。
そんな組織では、現場は自分の身を守るために過剰な発注や囲い込みをするしかありません。
その結果、企業の裏側では何が起きるでしょうか。
倉庫には「いつか使うかもしれない」と眠ったままの過剰在庫があふれ、会社の貴重なキャッシュを数ヶ月、数年にわたって拘束し続けます。
さらに、その過剰な在庫を管理するために、現場の職人やスタッフが確認作業や棚卸しに追われ、本来やるべきクリエイティブな業務の時間を奪われていくのです。
これが、企業の成長を止めるリソースの浪費(キャッシュフローの硬直化)の正体です。
最新のITツールを導入して一見スマートに見える企業でも、この現場の恐怖から生まれる過剰投資に気づかず、無駄なコストを支払い続けているケースは少なくありません。

では、こうした現場の恐怖から生まれる「見えない過剰投資」を止めるために、経営者は何をすべきなのでしょうか。
必要なのは、現場の担当者に「もっと考えて発注しろ!」と精神論を解くことではありません。
情報の一元化とデジタル連携によって、現場が100%安心できる環境を整え、業務プロセスそのものをスリム化していくことです。
1年目の組織からでもすぐに取り組める、具体的な3つのDXステップをご提案します。
最初のステップは、社内のあらゆる発注・在庫データを全員の目に見える形にすることです。
ナフサショックの目詰まりが、どこに何があるか内訳が見えないことから起きたように、社内でも、誰が、何を、どのプロジェクトのために、どれだけ発注しているかが、担当者個人のパソコンや頭の中に閉じ込められていると、周囲は不安になります。
まずは、クラウド上の共有シートやシンプルな管理ツールを使い、すべての調達状況を全社でリアルタイムに共有する仕組みを作ります。
「今、会社全体でこれだけの資材が確保されている」
「自分の部署の分も、あのアカウントにしっかり記録されている」
という事実がオープンになるだけで、現場の手元に隠し持っておこうという囲い込み心理は自然と消え去っていきます。
2つ目のステップは、担当者の経験や勘に頼った予測発注を排除し、システムによる自動連携を取り入れることです。
人間が自分の頭で「来月はこれくらい必要になるかもしれない」と予測すると、どうしても心理的なバイアスが働き、発注数は2割、3割と膨らんでしまいます。
ここにデジタルを導入します。
過去の稼働実績データと現在のプロジェクト進捗、そして取引先の最新納期データを自動で掛け合わせ、「今、本当に発注すべき適正量」をシステムが自動的に算出する仕組みを整えるのです。
システムが客観的な事実をベースに「今回の最適発注数は〇個です」と教えてくれるようになれば、担当者は責任のプレッシャーから解放されます。
データという絶対的な安心感があるからこそ、過剰な仕入れをきれいに削ぎ落としたスリムな調達が可能になるのです。
3つ目のステップは、現場を最も疲弊させている、名もなき確認業務の徹底的な無駄を排除することです。
資材が届かないかもしれないという状況において、現場のスタッフが朝から「あの部品はいつ届きますか?」「倉庫の在庫はあと何個ですか?」と、電話やメールでの確認連絡に追われるケースは非常に多いものです。
この確認するためだけに消費される時間とエネルギーこそが、企業にとって最大のリソースの浪費です。
在庫状況や物流の進捗を、現場のスマホから1秒でセルフチェックできる共有ツールやチャットシステムに置き換えます。
わざわざ誰かに電話をかけて確認する、という手離れの悪いプロセスを無くしてあげる。
これにより、現場の職人やスタッフは確認作業というノンコア業務から完全に解放され、本来の目的である施工や顧客対応、すなわち 、会社の利益を生み出すコア業務に打ち込めるようになります。

現場の「足りない恐怖」を解消し、プロセスをスリム化するための具体的な手段。
それが、受注・発注の処理をオンライン上で完結させるWeb受発注システムの導入です。
従来のように電話やFAXで飛び交っていた情報がシステムに一元化されることで、仕入れ金額のリアルタイム把握や月次決算の早期化など、経営体制そのものを強固にする多くのメリットが生まれます。
しかし、市場にある無数のシステムから自社に最適なものを選ぶには、中小企業の経営者ならではの見極めが必要です。
数あるシステムを比較する際、機能の多さに惑わされないための重要なポイントが2つあります。
① 現場での使いやすさとスマホ対応
受発注システムは、忙しい現場の最前線で使われます。
特にデスクに座ってPCを操作するのが難しい職人やスタッフにとって、スマホやタブレットから感覚的に入力・修正できるかどうかは、システムが社内に定着するかどうかの生命線になります。
② 周辺業務まで含めたデータの連動性
単に発注書をデジタル化するだけでなく、ステップ2・3で触れたような在庫状況の可視化や、見積から請求にいたるまでの周辺業務をどれだけデータで繋ぎ、名もなき確認業務を減らせるか?が重要です。
現在主流となっているクラウド型の既存システム(SaaS)は、何を重視するかによって主に3つのタイプに分類されます。
【利用企業が多い定番タイプ】
(例:BtoBプラットフォーム受発注、CORECなど)
すでに多くの企業に普及しているため取引先も受け入れやすく、手軽にWeb受注を始められるのが特徴です。
【周辺業務の効率化にも対応するタイプ】
(例:SmileWorks、商蔵奉行クラウドなど)
受発注と同時に商品ごとの発注手配を自動化したり、仕訳を自動起票して経理業務まで一気通貫でスリム化できるタイプです。
【カスタマイズにも対応できるタイプ】
(例:CO-NECT、MOSなど)
クラウド型でありながら、各社の要件に応じた細かな仕様変更に対応できる強みを持っています。
⚠️ 導入時における「最大の注意点」
これら既存システムは、契約すればすぐに使えるスピード感が大きな魅力です。
しかし、中小企業の現場には「当日発注ではなく1週間分をまとめて発注したい」「複数の配送現場に分けて納品したい」といった、取引先ごとの独自の商慣習やルールが存在します。
どれほどカスタマイズ対応を謳うシステムであっても、既存のパッケージである以上、自社のこだわりや現場の細かな要望に100%フィットさせることは不可能です。
システムに合わせて自社の業務プロセスを無理に変えようとした結果、かえって現場に新たな入力の手間や混乱という負担を強いてしまい、システム化そのものが頓挫してしまうケースは少なくありません。
「既存のシステムでは、うちの現場の歩幅にどうしても合わない。かといって、何百万円もかけて大掛かりなシステムを一から外注する予算はない」
そうしたジレンマを抱える経営者にとって、今まさに強力な選択肢となっているのがノーコード・ローコード技術を活用した、自社専用のローコスト開発というアプローチです。
例えば、Googleのプラットフォーム上で動く「AppSheet」などの最新技術をベースにした自社専用の業務システム(弊社の『Katachi -カタチ- 』など)であれば、既存システムを契約するのと変わらないほどの低コスト・短期間で、自社の調達プロセスに100%フィットしたオーダーメイドの仕組みを構築できます。
さらに、こうした自社専用のデジタル化投資には国や自治体が展開する各種補助金を活用し、コストの50%〜80%もの額を支援してもらえるケースが多いのも大きな特徴です。
補助金を賢く組み合わせることで、実質的な自己負担額を最小限に抑えながら、現場が最も安心でき、業務を限界までスリム化できる、自社だけの正解を手に入れることが可能になります。

時事ニュースであるナフサショックの構造から、多くの中小企業が抱える「見えない過剰在庫」のメカニズム、そしてそれを解決するための3つのステップについて見てきました。
今回のニュースが私たち経営者に向けた本当の課題は、世界的な資材不足そのものよりも、それによって引き起こされる「現場の先行きが見えない不安」が、必要以上の在庫を抱え込ませる『過剰投資(リソースの浪費)』を生み出してしまうという点にあります。
仕入れが遅れたり、資材が足りなくなったりしたときに、最も現場で頭を下げ、プレッシャーに晒されるのは調達の担当者や現場の職人たちです。
彼らが「念のために多めに発注しておこう」と動くのは、決して怠慢ではなく、むしろ「会社やプロジェクトを止めないように」という強い責任感の裏返しでもあります。
だからこそ、経営者が今すぐ取り組むべきは、彼らが恐怖や不安から余計な在庫を抱え込まなくて済むように、データ連携による調達プロセスのスリム化という具体的な仕組みを用意してあげることです。
ナフサショックのような突発的な供給不安が起きたとき、自社にリアルタイムで在庫の内訳や仕入れ納期が可視化されている仕組みがあるかどうかで、企業の命運は分かれます。
正確なデータという後ろ盾があれば、現場は過剰な囲い込みに走ることなく、今本当に必要な適正量だけをスマートに調達できるようになります。
結果として、倉庫に眠る無駄な在庫は削ぎ落とされ、企業の健全なキャッシュフローを守ることに直結するのです。
不確実な時代だからこそ、現場の勘や不安に頼る調達ルートから脱却し、データで繋がるスリムな連携へと舵を切る。
いま、皆様の会社の現場では、明日必要な資材や情報がすべて可視化されているでしょうか。
それとも、データには映らない、担当者それぞれの足りない恐怖が、見えない過剰投資となって倉庫やデスクの中に眠っているでしょうか。
この記事が、自社の調達プロセスや在庫のあり方、そして何より現場の安心感を見つめ直し、次の一手を考えていただくためのささやかな契機になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
情報のソース:FNNプライムオンライン
なぜ?「供給継続可能」でも「足りない」…広がる“ナフサショック”を追跡