Writer
やまうち しょうご
株式会社デジタルフォワード代表取締役/DXコンサルタント。旅行代理店からIT業界へ転身。Booking.com(外資IT)、アクセンチュア(外資コンサル)、CYDAS(日系IT)、フリーランスPMでの実務経験を経て株式会社デジタルフォワードを設立。業務改善・ツール導入・自動化支援を展開。伴走型コンサルとして中小企業を支援。英日バイリンガルでの対応も可能で、研修講師や戦略立案支援も行う。沖縄県在住。
「予約管理を効率化したい」
「Excelへの入力を減らしたい」
「担当者しか分からない仕事を、誰でもできるようにしたい」
こうした課題が社内で持ち上がると、つい「新しいシステムを入れよう」「自社専用のアプリを作ろう」と考えたくなります。
目に見える仕組みがあれば、問題をまとめて解決できそうに感じるからです。
けれども、業務改善の答えがいつも新しいシステムにあるとは限りません。
作業を一つやめるだけで流れが変わることもあれば、すでに契約しているツールの機能で十分なこともあります。
反対に、業務を整理しないままシステムを選ぶと、今ある複雑な手順をそのままデジタルへ移すだけになりかねません。
費用をかけたのに、入力先や管理の手間が一つ増えた。そんな状態は避けたいところです。
では、新しいシステムが必要かどうかを、どこで見極めればよいのでしょうか。
導入や開発を決める前に確認したい5つの基準から考えてみます。
最初に確認したいのは、現在の業務のどこで困っているかです。
例えば「予約管理が大変」という一言の中にも、いくつもの原因が隠れています。
電話、メール、紙に情報が分かれているのか。同じ日時に複数の予約を受けてしまうのか。
担当者しか状況を把握できず、変更がスタッフへ伝わるまでに時間がかかっているのか。
困りごとは似ていても、原因が違えば必要な対策も変わります。
入力先を一つに決めるだけで済む会社もあれば、既存の予約管理サービスが合う会社もあります。
自社の流れに合わせたアプリが必要になるのは、それでも解決できない課題が残ったときです。
中小企業庁の支援情報でも、デジタル化では業務を分析し、流れを明確にして見直したうえで、適したITツールやシステムを導入する考え方が示されています。
システムは課題を解決する手段です。導入の必要性は、次の5つの基準で整理すると判断しやすくなります。

「業務を効率化したい」「DXを進めたい」だけでは、必要な仕組みを決められません。
まずは、困りごとを具体的な状態に置き換えます。
月末に同じ数字を複数のExcelへ入力している
担当者が休むと、顧客対応の履歴が分からない
紙の申込書を見ながら、別の管理表へ転記している
予約変更がスタッフへ伝わらず、確認の電話が発生する
誰が、いつ、どの作業で困っているかまで説明できると、必要な機能と不要な機能を分けやすくなります。
現在の手順をすべて残したままシステム化すると、不要な作業まで仕組みの中に組み込まれます。
例えば、紙の台帳、Excel、業務システムへ同じ内容を入力している場合、入力を自動化する前に、どれを正式な記録にするかを決める必要があります。
その帳票は今も本当に使われているのか、同じ情報を別の場所にも入力していないかなど、「念のため」に残した作業や、増えすぎた承認を見直すだけでも、日々の手間は変わります。
自動化を考える前に、そもそも自動化する必要のない工程を外す。
地味に見えますが、システムを増やさずに業務を軽くできる方法です。
二重運用が起きている場合は、別記事『中小企業のDXはなぜ進まない?現場の「あるある課題」現在地チェックリスト』も参考になりますので、ぜひご活用ください。
新規開発を検討する前に、すでに利用しているツールの機能を確認します。
Google WorkspaceやMicrosoft 365、現在の会計・顧客管理・予約管理サービスなどには、使われていない機能が残っていることがあります。
また、一般的な業務であれば、既存のクラウドサービスで十分に対応できるケースもあります。
既存ツールを活用できれば、新しい操作を覚える負担や、ID・パスワード、契約、データ移行、保守の手間を抑えられます。
ただし、機能があることと、社内で無理なく運用できることは別です。
実際に使う人、入力のタイミング、管理責任者まで確認します。
新しい仕組みが必要でも、最初から大規模なシステムを作ろうとしていませんか?
まずは、対象業務や利用者を絞り、Excel・スプレッドシート・フォーム・AppSheetなどで小さく試す方法が最適です。
例えば、全社の申請業務を一度に変えるのではなく、まず一つの申請だけを対象にします。
入力項目に不足や重複はないか、現場が迷わず操作できるか、管理者が必要な情報を確認できるかなど、実際に動かしてみると、打ち合わせだけでは見えなかった例外や使いにくさが表に出てきます。
試した結果、既存ツールで十分だと分かるかもしれませんし、逆に、自社向けの開発が必要な理由が、そこで初めてはっきりすることもあります。
システムは導入した日がゴールではありません。
実際に使い始めてからも、社員の入退社や業務フローの変更、入力項目の見直しなどに合わせて、柔軟に運用を調整していく必要があります。
導入前に考えておきたいのは、誰がデータやアカウントを管理し、困ったときの相談先をどこにするかということです。
業務が変わったときの設定見直しや、古い帳票・旧ツールを終了する時期も、曖昧なままにしない方がよいでしょう。
専任のIT担当者がいないからといって、社内の人間だけで何とかしようと無理をする必要はありません。
方針の決定や見直しは自社で行い、実際の設定変更や保守は外部の専門家へ任せる。
そうした役割分担をあらかじめ決めておけば、導入後も無理なく運用を続けられます。

沖縄県内でエステを多店舗運営している企業様から、予約管理やダブルブッキングの防止、スタッフへの仕事割り振りをどう整えるべきかご相談をいただきました。
一見すると専用の予約システムを導入・開発すべき課題に見えましたが、業務を棚卸ししたところ、すでに契約されていた「Google Workspace」(カレンダーやスプレッドシートの権限設定・運用ルール見直し)だけで十分にカバーできることがわかりました。
結果として新たなツール費用や開発費をかけず、既存環境の運用改善のみで解決に至っています。
この企業が弊社へ問い合わせたきっかけは、Webサイトで見た「伴走支援」という言葉でした。
相談の段階から業務を一緒に整理していく姿勢に共感いただいた事例です。
弊社では、システムを作らないという結論も、業務改善の重要な選択肢の一つと考えています。
既存サービスで足りるなら、その方が費用も管理対象も増やさずに済みます。
それでも解決できない部分が見えてきたときに、小さく試す方法や開発する範囲を考えるという順番を大切にしています。
業務整理や既存ツールの確認を行った結果、次のような状況が残る場合は、新しい業務アプリや個別開発を検討する余地があります。
複数の業務をつなぐたびに、転記や確認が発生する
自社特有の手順があり、既存サービスでは重要な部分に対応できない
利用者や拠点が増え、現在の管理方法ではミスを防げない
閲覧・編集権限を細かく管理する必要がある
必要な情報を集計できず、経営判断に時間がかかる
この場合も、必要な機能を最初からすべて盛り込むのではなく、業務への影響が大きい部分から形にし、使いながら育てる方が、現場に合う仕組みを作りやすくなります。
新しいシステムの検討を始めると、機能や費用に目が向きがちです。
けれど、その前に考えたいのは「今の仕事の何を変えたいのか」「そのために、新しい仕組みは本当に必要なのか」ということです。
業務を見直した結果、新しく作らないという結論になるかもしれません。
それは計画倒れしたのではなく、不要な費用と管理負担を増やさずに済んだという、十分に価値のある判断です。
一方で、既存ツールでは埋められない部分が見つかれば、開発すべき範囲も以前よりはっきりします。
最初から大きな仕組みを目指さず、必要なところから形にしていけば、現場にもなじみやすくなります。
「どのシステムを選ぶか」で迷っているときほど、いったんツールの名前から離れて、今の業務を机の上に広げ、残す仕事、やめる仕事、仕組みに任せる仕事を分けるところからスタートしていきましょう。